ジブリへの愛と挑戦、そして別れ『メアリと魔女の花』

金曜ロードショーで『メアリと魔女の花』を見た。RPGで新しい街を訪れるワクワク、あれを何度も体験させてくれるようなアニメだった。感じたことを描いておきたい。

ジブリのオマージュ連発

スタジオポノックの第1作が『メアリと魔女の花』だったわけだが、そもそもポノックはジブリをリストラされた人たちを集めて出来た会社である。そこのところをはっきり示すためか、1作目はほぼジブリといった体だった。(2作目は現在公開中の『ちいさな英雄』には、ジブリ的でない表現も出てきそうだ。)

いきなり青くて光る何かを持った女の子が落下したり、気が付いたら鹿に乗って運ばれていたり、大木の上に乗っかっていたり。

魔力の表現なんかはほとんど『ハウルの動く城』そのままだった。そしてジブリお得意の飛翔する少女のモチーフは、本作でも繰り返し登場する。ジブリの少女は多くの場合空を飛び、そして必ずと言っていいほど落下するのである。

そういったスリリングな演出が『メアリと魔女の花』には過剰なほど登場した。ジブリ的世界観の誇張とでも言うべきだろうか。

そして赤毛にコンプレックスを抱くメアリの姿は、宮崎駿・高畑勲の2人が関わっていた『赤毛のアン』を思わせる。米林監督がジブリの大ファンであったことは間違いないだろう。

ジブリへの挑戦

しかしこの作品、米林監督がスタジオジブリにいた頃には作ることが出来なかっただろう。ジブリには宮崎駿の『魔女の宅急便』『ハウルの動く城』という魔女物がすでに2作あるのだ。

この絵柄で魔女を題材に作品を作ったら比べられるに決まっているのに、あえて『メアリと魔女の花』を作ったのである。まさに挑戦である。北斗の拳などでお決まりの、師範を倒して拳法を継承するアレを映画でやっているわけだ。

キャッチコピーは『魔女、ふたたび。』だった。やっぱり『魔女の宅急便』を意識してのことだろう。

でもなんで先行公開された映像がこれだったのかは分からない。いくらなんでも暗すぎるし、赤い字やフォントもあいまってナサニエル・ホーソン的な魔女の呪いが渦巻く世界へと誘われそうだ。

本作のテーマの一つである人間のエゴを描くためには、これぐらいの暗さが適切である。だから『メアリと魔女の花』の奥に潜む、笑って見逃せないほの暗さに着目した映像と言えるかもしれない。

ジブリの魔法は解けて

米林監督はインタビューで、ジブリ時代より製作費が桁違いに少ないと語った。スタジオジブリという旗印のもとに、お金が集まっていたのだ。その魔法が解けてなお、『メアリと魔女の花』の作画はジブリ時代から見劣りしない。特に冒頭の数分や、お決まりの飛翔シーンが見せた躍動には息を呑んだ。

確かにこんなアニメーションが作れるチームを解散してしまうのはもったいない。ジブリ制作部門の存続を図って生まれたスタジオポノックだったが、続けてもらって良かったと皆が思っているはずだ。

『メアリと魔女の花』のラストで、メアリは夜間飛行の実を捨ててしまう。あの場面こそジブリという魔法に別れを告げた場面なのだろう。きっと今後スタジオポノックからジブリ色は薄れていくのではないだろうか。

メアリがキュート

本作の最大の魅力はメアリのキャラクターであり、赤毛にコンプレックスを抱く彼女の姿はファンを惹きつける。誰もが持つ変わりたいという想いを、代弁するキャラクターとして立ち上がってくるのだ。

杉咲花の演技も素晴らしく、大正解のキャスティングだった。他のキャスティングには謎の人選もあったが、ジブリのように非声優を選んでいるところは同じだ。

彼女の明るい声が無かったら、今までの米林監督らしい静かで少し暗いお話になっていたかもしれない。

惜しい所

風呂敷を広げたわりに、後半の展開は驚きに乏しい。これは壮大なスケールの物語を原作にしながら、なぜか一国の小悪党との戦いに終始してしまった宮崎吾朗版『ゲド戦記』に近い。

悪党はコミカルな割に凶悪なことをしていて、終盤の場面なんてトラウマになりかねないほどの恐怖があった。ならもう少し人間のエゴを描き出す様な展開にしても良かったような気もする。最後の方はサングラスのおじさんが、メアリを止めていたりしてややこしい。マダムも力を失って、元々どこにも悪人がいなかったような気分になる。

つまり子供向けなのか、大人向けなのかが分かりづらかった。原作がある作品なので、変えれないところも多かったのかもしれないが。

あとメアリが成長する理由付けが弱い気もした。宮崎駿の描くキャラほど、苦労していないような(ex.千尋・ソフィー・キキetc)。

守破離

日本の伝統芸能には「守破離」という価値観がある。

  • 守…師を完璧にまねする
  • 破…師の技をアレンジし、新たな技を生み出す
  • 離…0から新たな技を生み出す

この三段階を多くの人がこなしてきたからこそ、日本には多様な文化が花開いた。『メアリと魔女の花』はまさしく、宮崎駿の後継者らしい「守」の映画だった。

現在公開中のスタジオポノック第2作『ちいさな英雄』は、明らかに『破』の映画である。ジブリの影響を感じるものの、そこから脱した作風の短編集だ。特に「透明人間」は、ジブリでは有り得なかっただろう。

ポノックはジブリの作風を発展させ、「破」に留まるのか。それとも「離」へと歩を進めていくのか。そこに注目したい。

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