【金の国水の国】なぜ映画で「国境の壁」を描いた?【原作との違い】

アニメ映画『金の国 水の国』の面白さや原作との違いについて、作中に描かれた建築物に注目しながら考察していく

アニメ映画『金の国 水の国』のあらすじ

映画『金の国 水の国』本予告 2023年1月27日(金)公開
あらすじ:砂漠と岩に囲まれた商業国家・アルハミド(金の国)と、豊かな水があるものの貧しい国・バイカリ。隣り合った二国は長きにわたり戦争状態だった。そこに神の仲裁が入り、アルハミドは「国で一番美しい娘」を、バイカリは「国でいちばん賢い若者」をそれぞれ花嫁と花婿として送り合うことを約束した。しかしアルハミドのお姫様・サーラ(CV 浜辺美波)の元に送られてきた花婿は、「国でいちばん賢い若者」ではなく子犬だった。一方でアルハミドの花嫁の嫁ぎ先として選ばれたバイカリの建築士・ナランバヤル(CV 賀来賢人)の元にも、花嫁代わりに子猫が送られてくる。ある日、国境の壁に空いた穴から脱走してしまった子犬を追いかけていたサーラは、ナランバヤルと出会い、二国を巻き込んだ大きな物語が始まる…。

岩本ナオのマンガ『金の国 水の国』は、2016年に「このマンガがすごい!オンナ編1位」を受賞した話題作。その劇場アニメ版が、2023年1月27日にマッドハウス制作、渡邉こと乃監督により公開された。劇場アニメ版では原作とどこが違っているのか、どのような面白さがあるのか、印象的な建築物に注目しつつ書いていきたい。

基本的には原作に忠実に作られている

原作マンガ『金の国 水の国』は1冊で完結している作品だ。一つのコミックスの中に詰め込まれた物語や伏線のムダの無さが素晴らしい。そのボリュームからか、映画化にあたっても、全てのエピソードが基本的にそのまま再現されている。監督を務めた渡邉こと乃氏が「完璧な作品」と評した原作の魅力を、余すことなく映画に詰め込んだ形になっている。

原作と映画版の違い①圧倒的な背景画

背景画のメイキング映像

制作を務めたマッドハウスは『時をかける少女』や『パプリカ』で知られる名門アニメスタジオ。壮大な映像表現が、原作の世界観を力強く補強していたように思う(もちろん原作も素晴らしいが)。特に印象に残るのは、「金の国」「水の国」それぞれの文化や生活が伺える背景美術だ。

美術監督を務めた清水友幸氏は、アニメ「ちはやふる」などでも活躍した方。今回は手書きでの作画も取り入れ、原作の雰囲気とマッチさせたとのことだ。

「水の国」の街並みが原作よりもエスニックに描かれる

印象的なのは、バイカリ(原作におけるB国)の街並みだ。原作マンガではレンガ造りのような家に住んでいたのだが、映画版では明確に東アジアをイメージさせるような街並みになっていた。建物に特定の文化圏の要素を組み込んで、再構成したようなイメージだろうか。特にバイカリの族長・オドゥ二が暮らす屋敷は、水辺にたたずむ名建築で、チベットの断崖絶壁に建てられた寺院のような姿だ。「水の国」の文化圏がどのあたりをイメージしているかを明確に示した。

「金の国」の街並みは、息をのむ壮大さと美しさで

「金の国」のシーンでも背景美術が物語をリードする。ナランバヤルが初めて王都にたどり着いたシーン。彼が感じた衝撃は、観客にも素晴らしい映像を介して共有される。原作でも克明に描かれていた「金の国」の背景だが、アニメ版に導入された細かい設計が、そこに息づくキャラクターたちの生活すらも浮かび上がらせる。

中東・ウズベキスタンあたりの宮殿のような豪華絢爛な部屋の数々。青いタイルで埋め尽くされた天井や光を取り入れる窓に掘られた格子の繊細さ、そして囚人が作る寄せ木細工の質感。全てが宝物のような背景画だった。

こういった二つの国の違いを印象付ける背景画のこだわりが、異なった文化圏が手を取り合っていくというストーリーラインを、より鮮やかに描き出した

原作と映画版の違い②二つの国を隔てる壁

映画版の冒頭で語られるように、「金の国」と「水の国」の間には万里の長城のような壁がある。レンガを積み上げて作られた巨大なもので、ベルリンの壁を始めとして「戦争」や「分断」を象徴するイメージだろう。実はこの壁、原作には登場しない

ストーリー序盤、この壁に空いている穴からルクマン(子犬)が脱走し、サーラとナランバヤルは出会う。「戦争」「分断」を象徴する壁に空いたほんの少しの穴、そこから始まった物語が、結果として戦争を終わらせ、二つの国を繋げていくのである

国境の壁と、国を繋げる水路の対比

同じレンガ造りでも壁は「隔てる」、水路は「繋げる」

また、本作で最終的に作っていくのは、「レンガ造りの水路」である。見た目は冒頭に登場する壁とほとんど同じだが、二つの国を分けるのではなく、繋げるために作られる。上の図に示したように、同じレンガ造りの壁でも、縦方向と横方向で大きな差である。安藤忠雄ライクな建築家・アジーズの「建築ってなにかね」という問いに「人が集まる場所です」と答えるナランバヤル。建築とは人を分断するものではなく、繋げるものだという信念が感じられる。

建築物が重要な要素として登場するのは、土木建築・設計が作品の根幹に関わる「金の国 水の国」らしい。街並みの素晴らしさもさることながら、水路と壁の対比が新たに描かれていることは、かなり印象的だった。

おわりに

「美しいお姫様が白馬に乗った王子様と出会う」物語をスライドさせたこの現代の寓話から、様々なメッセージを受け取られた方も多いだろう。美男美女でなければロマンスが出来ないわけでもなければ、恋を選べば国が救えないわけでもない。大事なのは、相手が欲しい言葉をちゃんと届けられるよう、相手のことを知ることなのだろう。ナランバヤルが敵国である「金の国」の歴史に詳しくなければ、王と対峙したシーンで死んでいた。原作者の「人に対する慈しみのまなざし」が伝わってくるような名作だった。

原作とアニメでは、上記の他にも違いがある。「王族だけが知る隠し通路」を発見するくだりが若干違ったり、ジャウハラの戦闘に増援が来なかったり、最後に族長が「金の国」で乗るのが、エスカレーターからエレベーターになっていたり、アニメ版で再構成された部分も多い。

そういった違いを知ることも作品をより深く楽しむために有効だと思う。最近はAmazonのアプリなど、電子書籍でマンガを読むことも出来るので、1巻で完結する「金の国 水の国」の原作マンガも要チェック。それでは。

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