美しき童貞の青春疾走譚『早春/イエジー・スコリモフスキ監督作品』

ポーランドが生んだ鬼才、イエジー・スコリモフスキ監督の代表作である『早春』の見どころを紹介。1971年の作ながら古びていない映像表現と、主演ジョン・モルダー・ブラウンの美しさを見るべし。

美しすぎる少年

こちらのトレイラーを見て頂きたい。主演ジョン・モルダー・ブラウンのもつ、儚い美しさがこの映画には刻まれている。かつては美少年だった彼も、今は立派なおじさんだ。この物語は彼が演じる15歳の少年マイクの、恋愛への狂気と言えるほどの疾走を描き切った作品である。彼が恋に落ちたのは同じ公衆浴場で働く、23歳の”だれとでも寝る女”スーザンだった…。

大人の世界へ放り込まれた美少年

学校を辞め、公衆浴場に就職したマイク。風呂場の掃除やお客の案内が主な仕事だったはずが、美少年ゆえかお客から性的なサービスを求められる。それらをなんとかかわすマイクだったが、大人の世界との接触が彼の性的興味を掻き立てていく。それは職場の同僚であったスーザンへの憧れとない交ぜになり、歪んだ激しい恋愛感情がマイクを暴走させていくことになる。

マイクは少年ゆえの潔癖さを持っている。お金を稼ぐことや、誰かと寝ることに強い嫌悪感を示す、マザコンボーイである。しかし同時に、童貞である自分にコンプレックスも持っていて、同年代の男たちから馬鹿にされた時は激しく怒る。そんな多くの男の子が経験する思春期の感情を、上手く描き出しているのが『早春』である。

美しい映像

主演だけでなく、舞台となった公衆浴場も綺麗なタイルに彩られた美しい場所だ。そしてトレーラー映像を見て頂ければわかるように、独特の色味があり、それがまたいい味を出している。逃れられない性欲を示すかのように何度もクローズアップされる肉体、カメラワークは理性と本能の間で揺れ動く。この映像だけでも見る価値がある。ポーランド映画を見たことが無く、自分に合うか分からないという方にも、勧められる作品だ。

初恋の失敗を追う

一見共感出来無さそうなこの美少年が、恋愛に狂っていくところが本作の最大の見どころだ。だれにとっても、恋愛とは狂気なのだ。そしてこのマイクにとっては、スーザンへの想いが初恋なのである。初恋は、甘酸っぱい青春の思い出なんかじゃなく、恋愛初心者の失敗集なのである。だれだって忘れたい思い出の一つや二つあるはずだ。本作は、彼の狂気ともいえるアプローチを追う物語なのである。笑い飛ばすもよし、共感するもよし、反面教師にするもよし、胸が締め付けられるのもよしなのだ。

おわりに

真実の愛を見つけることは、雪の中から透明なダイヤを探す様な行為だ。その探索に必要なのは、多くの相手と寝て数を打つことではなく、熱とドラマでもって愛を発展させていくことなのかもしれない。

しかしどうして男は地味な娘より派手な娘に惹かれてしまうのか、多くの場合その先に待っているのは破滅的な別れなのに。この永遠の謎に答えは出ないが、この感覚を共有している諸氏は、必ずマイクに強く共感し、本作を楽しめるだろう。

2018/11/17 京都出町座「ポーランド映画祭」にて鑑賞

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