『エターナル・サンシャイン』の謎に迫る考察_二人のその後について

2004年にアカデミー脚本賞を受賞した名作ロマンス・SF映画『エターナル・サンシャイン』。複雑な物語を考察する。

エターナルサンシャイン

エターナルサンシャイン Eternal Sunshine of the Spotless Mind 2004

『エターナル・サンシャイン』は2004年にアカデミー脚本賞を受賞した、SF要素を持った恋愛映画だ。『記憶』をテーマにした複雑な脚本は、(言葉は悪いが)恋愛映画では見られなかったような見ごたえを生み出している。あらすじはこちら。

主人公のジョエル(ジム・キャリー演)とクレメンタイン<クレム>(ケイト・ウィンスレット演)はバレンタインの直前に喧嘩してしまう。ジョエルは仲直りのために彼女に会いに行くが、まるで知らない男のように扱われショックを受ける。後に彼はクレメンタインが『記憶を消し去る手術』を受けていたことを知り、自分も同様の手術を受けることを決心する。
以下には劇中のネタバレを含む考察を記載する。
ストーリーの奇抜さが面白い映画のため、ぜひ未視聴の方はネタバレ前にAmazonやTSUTAYAなどで視聴してから再訪して欲しい。

時系列の逆転

本作は記憶を辿り、時をさかのぼる映画だった

まず皆さんと考えを共有しておきたいのは『エターナル・サンシャイン』における時間の流れだ。本作において、時間の流れは多少前後するものの、「2004年のバレンタイン」から少しずつさかのぼる形でシーンが描かれていく。

描写から察するに、記憶消去のマシンは「新しい記憶から順番に消していく」ものだった。記憶消去の始まりは直近のドクターとの会話やクレムとの喧嘩の思い出であり、終わりは二人の出会いの場面になっている。

逆転に気づかせるヒント

本作においては様々な伏線が張り巡らされており、時系列が逆転していることに気づかせる仕掛けとなっている。冒頭3分のシーンに出てくる車の傷が最初の伏線である。この傷は、喧嘩別れの場面でクレムがぶつけたものであることが明かされる。

その他にも記憶消去後の序盤では、パトリック(記憶消去後のクレムに言い寄って、下着を盗んだヤバいやつ)が、クレムの家の前で待ち伏せをしており、車に乗っているジョエルに話しかけてくるシーンもあった。

また恐らく当時のアメリカ人のほとんどが知っていたであろうアニメ「珍犬ハックル」(クレムが歌っていたように、劇中歌に「クレメンタイン」が出てくる)について、記憶消去後のジョエルは忘れている。二人の出会いのシーンではジョエルから歌っていたのに。歌詞に「クレメンタイン」と入っていたために、誤って消されたことが分かる。

髪の色の変化

髪の色の変化も時間の流れを推理するヒントになっている。

上記の順番で髪の色が変化するのだが、実はこの色も意味があって設定されているものだ。緑は若葉をイメージさせるし、赤は紅葉のように燃え上がる恋の情熱を、そしてオレンジ(茶色)は枯葉を思い起こさせる。特に髪がオレンジ色のクレムは破局を示唆するように、常に怒っている印象だ。序盤のバスのシーンでクレムはそれぞれの色を次のように名付けている。

  • 緑→Green Revolution緑の革命
  • 赤→Red Menace赤の脅威
  • オレンジ→Agent Orange 枯葉剤
  • 青→Blue Ruin 青い破滅

オレンジを枯葉剤と呼んでいるのも分かりやすいが、やはり二人の破局後の髪色を「青い破滅」と呼んでいるのが象徴的だ。

ジョエルの記憶消去がクレムに影響する

2003年11月19日、中華料理屋のシーンでジョエルはクレムに呼びかける「I like that.=キレイだ」と。その記憶が消去される中、現実世界ではクレムがパトリックに泣きながら電話をかけてくる。そこでクレムはパトリックに問いかける…「Do You think I`m ugly?(私ってブス?)」と。ジョエルの中からクレムの容姿を褒めた記憶を消されることで、クレムが不安定になるのである

クレメンタインの自信に満ちた振る舞いにかき消されているが、自分の顔にコンプレックスを持った女性であることが、お人形のエピソードから分かる。ジョエルに褒められることで保っていた肯定感が、クレム・ジョエル双方の記憶消去を通じてこの世から消えてなくなってしまうことで、まるで自分自身が消えてしまうような錯覚に陥っていたのだ。

この電話を取るとき、パトリックはクレムに「タンジェリン」と呼びかけるのだが、これはジョエルが褒めたオレンジの髪の色のことであり、電話の時点では青い髪をしている彼女に呼びかけるのはズレている。ジョエルが彼女をタンジェリンと呼ぶのも二人の間に共有された思い出があるからで、このシーンではパトリックの偽物(代用品)としてのキャラクターが際立っている

代用品としての登場人物

パトリックはジョエルの代用品として、彼の過去の言葉をクレムにささやき続けるが、その言葉が彼女に響くことはない。同様に記憶消去を行うラクーナ社の受付であるメアリーも、若いドクター(スタン)を「博士」の代用品として接する。本作においては、代用品では役目を果たせないことが示され、パトリックもロブも結ばれることはない。また代用品を象徴的に表すのが自分オリジナルの言葉を持たない「Bartlett(引用だけの本,メアリーが読んでいる)」であり、その引用を持って博士と通じようとしたメアリーの試みも、やはり失敗に終わる。

『時計じかけのオレンジ』のオマージュ

序盤に登場する楽し気な音楽を流されている中で記憶を消されているご婦人は、名作SF『時計仕掛けのオレンジ』のオマージュではないかと思う。同作にも、記憶を消される場面で音楽が使われる象徴的なシーンがある。また記憶を消す機械もどこかレトロで、過去のSFの気配を感じさせる(あとから応援に駆け付けた博士はよくあるパソコンで操作し始める)。

なぜ彼らはモントークへ向かったのか

冒頭のシーンへ帰る。ジョエルは衝動にかられモントークへ向かう。そこにはクレメンタインがいる。なぜ彼/彼女はモントークへと向かったのか。これまで示されてきたように、ジョエルの記憶消去と現実のクレムはリンクしていた。記憶消去のラストにおいてジョエルはささやく「モントークで会いましょう。」この言葉が暗示となって、ジョエルの深層心理に入り込み、記憶消去後の彼を動かしたのではないだろうか。

ジョエルの記憶の中でも、自分で考えて動いているように見えるクレメンタイン。彼女の言葉と意志が記憶と現実をリンクさせ、奇跡を起こしたのだろう。

ジョエルとクレメンタインはどうなるのか

劇中ではジョエルとクレメンタインのその後は語られない。映画内の要素から推測してみよう。

まず「出会いなおし」た後、クレムの部屋でカクテルを飲むシーン。2人が1本の酒瓶から分かち合って飲んだ酒を、クレムはまたもや「Blue Ruins(青い破滅)」と呼ぶ。ここから暗示されるのは、再びの破局である。

二人の本作における歩みを振り返れば、二人が出会った当初へと記憶がリセットされていったことが分かる。視聴者の視点では髪の色は青→オレンジ→赤→緑と、実際の時の流れと逆に明らかになっていくのだが、これが「リセット」を著している。最後の髪色は、緑と同じ寒色である青に「リセット」されたという意味合いもあるのだろう。恐らく記憶が戻っていない二人は、また同じ道筋を辿ってもおかしくない。

そして記憶が戻ったメアリーと博士は破局している。ただし彼女たちは元々結ばれない恋であり、「自分が一番でないとイヤ」と主張したクレメンタインとは異なる。

そしてメアリーと博士以上に、クレムとジョエルの「コピー」といえるカップルがいる。ジョエルの友人夫婦である。繊細そうな妻とがさつそうな夫は、クレムとジョエルの出会いのきっかけになっただけでなく、彼らの未来図の一つとして提示されたように感じる。本作のラストシーン、彼らは「完ぺき」ではないお互いを肯定し、いずれ互いを嫌いになることを認めた上で、復縁する。共にいやな部分を認めながら、それでも関係を築いていき、振り返ればたくさんの良い思い出が積み重なっているのが、恋人から夫婦へと変わっていくことなのかもしれない。

おわりに

筆者の感想として、特に好きなシーンが2つ。一つは冒頭のジョエルの様子で、直近1年の記憶がクレムとの思い出ばかりだったため、消去されたことにより明らかに人生が楽しくなさそうなのである。楽しそうなシーンを描くのではなく、人生を楽しんでなさそうなシーンを描くことで、逆にクレムとの楽しかった過去を強調するという手法がグッとくる。

もうひとつは、モントークでの出会いのシーン。出会って1分でチキンを強奪するクレムに、ジョエルは「この時からもう恋人みたいだったんだな」と振り返る。別れ際の恋人にとっては、過去は全てイヤなものに感じられるかもしれないが、その時は気づかなかったいい思い出がたくさん眠っているものなのだろう。恋人との出会いを振り返る良いシーンだ。

さて、ここまで読んでいただき、また初めから観たくなっている人もいるのではないだろうか。本作は構成が複雑な分、繰り返し見れば見るほど、新たな発見がある構造になっている。ぜひ繰り返し見てほしい。

この『エターナル・サンシャイン』を楽しんで観た人は、きっと『アバウト・タイム ~愛おしい時間について~ 』という映画も好きになると思うので、ぜひ観てほしい。同じく恋愛と時間を扱った映画で、それぞれを見ることで、互いの理解が深まる部分もあると思う。

また下部にはコメント欄を設けているので、ぜひエターナル・サンシャインの感想を書いて行ってください。それでは。

※本記事は筆者の独自の見解によるものであり、オフィシャルの解説ではございません。ご留意ください。

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