『シン・エヴァンゲリオン』は宮崎駿へのアンチテーゼだった

庵野秀明は独自の制作スタイルで師匠・宮崎駿を超えようとしていた?その衝撃的な制作方法は、スタジオジブリとどこが違うのか。そして庵野秀明が宮崎駿から受けた影響とは。

シン・エヴァンゲリオンの特徴的な制作スタイル

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』本予告【公式】

『シン・エヴァンゲリオン』は、監督である庵野秀明によるオリジナルな手法で制作された。アニメ映画としては大変珍しく、絵コンテ無しで制作されたのである(一部シーン除く)。ジブリの宮崎駿に「アニメの作り方の手本を示してもらった」と語るほど、師として彼を尊敬している庵野秀明。筆者はこの絵コンテ無しの手法が、庵野が宮崎駿を超えようという試みなのではないかと考えた。

絵コンテとは

千と千尋の神隠し 登場人物のモデル 2001
千と千尋の神隠しの制作に密着した動画、絵コンテがアニメ制作に一番大事であると紹介されている。

絵コンテとは映画を作る際の設計図ともいえるものだ。各カットの構成やキャラクターの動きなど、スタッフがアニメを作る際のベースとなるものが書かれている(上記動画にてジブリでの絵コンテを見ることが出来る)。『千と千尋の神隠し』であれば監督・宮崎駿自身が、絵コンテを自らの手で詳細に描き、各スタッフへと指示を出していく。

宮崎駿による美しい絵コンテは、本として発売されている

絵コンテ無しでの制作とその意図

では、庵野秀明は絵コンテ無しでどのように『シン・エヴァンゲリオン』を作り上げたのか、NHKのドキュメンタリー番組『プロフェッショナル 仕事の流儀』が制作現場に密着したことで、その姿が明らかになった。

  • 各キャラクターが割り当てられた役者たちが、様々なポージングを取る
  • その姿をあらゆる角度から撮影する
  • 撮影された写真をCGモデルへと変換し、同じシーンを様々な角度から吟味
  • 最もしっくりときた角度のカットを採用

この手法を使うことで庵野が実践したのは、『監督の頭の中にあるカット』を超える画面の構成を見つけ出すことだ。

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(0:58~)綾波が電車の下の猫をのぞき込むシーンの画面構成が素晴らしい

日常シーンのワンカットに至るまで徹底的にこだわった画面構成は、見る者を飽きさせない魅力があるように思う。監督の頭の中で素晴らしいカットを生み出し、各スタッフへと的確に指示を出していく宮崎駿の制作スタイルは、あらゆるアニメにおいて実践されているところだろう。その制作スタイルを超えようとするかのような、庵野流の方法で『シンエヴァンゲリオン』は制作された。

\『プロフェッショナル 仕事の流儀』の拡大版 視聴可能/

孤高の天才・宮崎駿流の制作スタイル

宮崎駿はアニメを制作するにあたり、その制作意図や各シーンについて詳細にスタッフへと説明することで知られている。昨今のアニメにおいては、一部のシーンの作成を他のスタジオへ外注することも一般に行われている。エヴァンゲリオンにおいても、最後のスタッフロールで制作会社であるカラー以外のアニメスタジオの名前が並んでいた。

宮崎はわずかなワンシーンを作る外注先にすら、シーンの意図を詳細に説明する。全スタッフがアニメの全体像を把握した上で、そのシーンに合った作画が出来るように、という意図がある。

彼は自分の描いた全体図を完璧な形でアニメーション化することに手間を惜しまない

師を超えろ、庵野秀明流の制作スタイル

プロフェッショナル 仕事の流儀』において明かされた庵野秀明の制作スタイルは、宮崎とは真逆のものだった。庵野は自ら書き上げたシナリオを各スタッフへと配るものの、その内容について一切説明をしない。そしてスタッフがそれぞれに解釈し各シーンを作り上げてきても、リアクションすらしない場面も多い。中には「シナリオが分からない」と冗談めかして愚痴をこぼすスタッフもいた。常にパニック気味で、庵野に対して困っているスタッフたちの姿に焦点が当てられた面白いドキュメンタリーだった。

ここでも庵野は、自分自身の頭の中にあるものを超えるような展開が、スタッフから出てくる可能性をつぶさないよう、内容について説明せずに制作を進めている。制作スケジュールの兼ね合いで、庵野が自身で考えるシーンも多く描かれていたが、根本にある発想は集合知であったと思う。

天才的な職人ともいえる宮崎駿がリードする形で作られてきたジブリ映画に対し、熟練の職人たちのコミュニケーションを通じて作り上げられようとしたのが、本作『シン・エヴァンゲリオン』であった。当然、各シーンの指揮を執り、書き直しなどを何度も命じたことで、庵野秀明のカラーが色濃く出た作品になっているが、戸惑いながらも庵野と共にあのエヴァンゲリオンを終わらせたスタッフたちの活躍には、目を見張るものがある。

それでも描かれるエヴァの中のジブリ的風景

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しかし『シン・エヴァンゲリオン』を見られた方はお分かりだろうが、ジブリの気配を感じさせられるシーンが本作には登場する。突然公式よりTwitter等に公開され、未見のファンをざわつかせた綾波レイが田植えを行うあのシーンである。

本作のテーマが「エヴァンゲリオンは終わった、オタクよ現実に帰れ」だとするならば、その人間的な暮らしの模範例として描かれているのが、田植えのシーンなどを含む第三村のエピソードだろう。全員が勤勉に働き、農業を主体に暮らしている原始的な村こそ、まさに宮崎駿が『風の谷のナウシカ』や『もののけ姫』で描いてきた風景だ。『天空の城ラピュタ』において、シータは悪役・ムスカ大佐に叫ぶ「どんなに恐ろしい武器を持っても、たくさんのかわいそうなロボットを操っても、土から離れては生きられないのよ!」と。

ジブリが描いてきた世界観は、元ジブリスタッフである庵野秀明の中に深く根を下ろしている。また前作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q 』から『シン・エヴァンゲリオン』の間に、ジブリ映画『風立ちぬ』の声優として、ジブリに暖かく迎え入れられた経験も、本作に影響しているだろう。

おわりに

庵野秀明は宮崎駿に影響を受け、同時にそれを超えようとした。碇シンジが父・ゲンドウを超えようとした構図と重なる。父を超える時、少年は大人へと成長する。

きっと師を超えようとすることは、敵対ではなく尊敬の延長なのである。高い目標としてそびえたつ宮崎駿への挑戦ともいえる『シン・エヴァンゲリオン』だが、第三村のシーンにはかのスタジオのイメージキャラクターであるトトロを描いた小物が登場していた。自分自身の集大成として作り上げた一作に、師の代表的キャラクターを登場させる。これが尊敬でなくて、何と言えるだろうか。

皆さんは『シン・エヴァンゲリオン』をどのように受け止められたでしょうか。ぜひ下部のコメント欄へ頂けるとありがたいです

興行収入は現時点で70億円、ロボットアニメで初の興収100億も視野に入ってきている。これはガンダムですらたどり着いたことない境地で、それをこれほど難解な作品でやってのけたことは、どうしても感動してしまう。ああ、とにかくエヴァの呪縛から解き放たれた庵野秀明の次作が楽しみで仕方ない。

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(NHKのスタッフにとって)『苦行のような日々の始まりだった』という衝撃的なナレーションから始まる4年間の長期密着、人は追い詰められたらどうなるのか…激面白いです!

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